ゆるりと学ぶフュージョン

フュージョンエネルギー(核融合発電)をやさしく解説するブログです(旧「星のかけら 核融合」)。 記事内のイラストは、自由研究などで自由に使ってください。

超伝導磁石は「爆発」するの? ― TNT換算表現にひそむ大きな誤解 ―

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フュージョン(核融合)発電に関する本や記事の中で、
「核融合発電のための超伝導磁石は、TNT火薬○○トン分のエネルギーを蓄積しているので、爆発するかもしれない」
といった表現を見かけることがあります。

中には「日本物理学会編」と書かれた書籍に載っている場合もあります。

私は長年、超伝導磁石の研究に携わっていますが、超伝導磁石そのものが爆発したという話を聞いたことがありません。
(もちろん、永久磁石が爆発したという話も聞いたことはありません。)

結論から言うと、
この「爆発するかもしれない」という表現は、物理的に正しくありません。


そもそも「爆発」とは何か

一般に爆発とは、

  • 気体などが
  • ごく短時間で
  • 急激に膨張し
  • 周囲に衝撃波や爆風を与える

現象を指します。

代表例が火薬の爆発です。
火薬では化学反応によって大量のガスが一気に発生し、体積が急増します。


超伝導磁石は「電磁石」

超伝導磁石は、

  • 導線をぐるぐる巻いたコイル
  • そこに電流を流すことで磁場を作る

という、基本的には「電磁石」です。

確かに、

  • 磁場の中にはエネルギーが蓄えられています
  • 磁石には外側へ広がろうとする電磁力が働きます

ここまでは事実です。


少し膨張させてみるとどうなるか?

仮に、超伝導磁石が何らかの理由で少し膨らんだとします。

すると、

  1. 導線に機械的な力がかかる
  2. どこかで導線が切れる、または超伝導状態が失われる
  3. 電流が流れなくなる

電流が流れなければ、磁場も生まれません。
磁場がなければ、電磁力も生まれません。

つまり、

それ以上、膨張し続けることはできません。

もし導線がゴムのように何倍にも伸びる材料でできていれば、別の話になるかもしれません。
しかし、実際の超伝導線材は金属です。伸びには限界があります。

回りくどい言い方になりますが、
超伝導磁石を「爆発」させる物理的メカニズムは存在しません。


TNT換算が生む誤解

磁石に蓄えられたエネルギーの大きさを説明するために、

TNT火薬○○トン分に相当するエネルギー

という「換算」が使われることがあります。

これは数値の大きさを示すための換算にすぎません。

  • TNT:化学反応エネルギー
  • 超伝導磁石:磁場として蓄えられたエネルギー

エネルギーの種類も、放出の仕方も、まったく違います。

エネルギー量が同じだからといって、
起こる現象まで同じになるわけではありません。


実際の大型装置ではどうか

世界中で、大型の超伝導磁石を用いた核融合装置が長年運転されています。
大型ヘリカル装置(日本)、WEST(フランス)、KSTAR(韓国)、EAST(中国)などです。

これらの装置で、

「超伝導磁石が爆発した」事故は報告されていません。

万一、超伝導状態が失われる(クエンチ)場合でも、

  • 電流を逃がす回路
  • エネルギーを分散させる抵抗器

などが設計されており、起こり得るのは

  • コイルの一部損傷
  • 冷媒の蒸発
  • 装置停止

といった機械的・熱的トラブルです。

爆薬のような爆発とは性質がまったく異なります。


本を読むときの大切な姿勢

書店にはたくさんの本が並んでいます。
しかし、すべてに正確な内容が書かれているとは限りません。

特に、

  • 極端に不安をあおる
  • 刺激的な比喩表現

には注意が必要です。

エネルギーの「大きさ」を強調したい気持ちは分かりますが、
物理現象として誤解を招く表現は好ましくありません。


まとめ

  • 超伝導磁石は大きなエネルギーを蓄える
  • しかし爆薬のように爆発することはない
  • TNT換算は「大きさの例え」にすぎない

超伝導磁石が爆発する、という心配をする必要はありません。

なぜフュージョン(核融合)発電には超伝導電磁石が必要なの?

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発電が成立するためには、
使うエネルギーよりも、取り出せるエネルギーの方が大きい
必要があります。

これは、フュージョン(核融合)発電でも同じです。


フュージョン発電の「悩みどころ」

フュージョンでは、1億度にもなる高温のプラズマを、磁場の力で閉じ込めます。
そのために必要なのが、強力な電磁石です。

ところが、普通の電磁石は磁場を作るために、常に大量の電気を流す必要があります。

すると、

  • 電気を作るために
  • 先に大量の電気を使う

という、少し困った状況になってしまいます。


矛盾を解決する「超伝導電磁石」

この問題を解決するのが、超伝導電磁石です。

超伝導材料は、ある条件を満たすと、

  • 電気抵抗がゼロになる
  • 電流を流しても、ほとんど電力を消費しない

という特別な性質を持ちます。

そのため、

  • いったん電流を流せば
  • ほぼエネルギーを使わずに
  • 強い磁場を保つことができます。

つまり、
「電気を作るために大量の電気を使う」という矛盾を回避できるのです。


ただし「極低温」が必要

超伝導状態を保つためには、材料を非常に低い温度まで冷やす必要があります。

日本の大型ヘリカル装置(LHD)では、
超伝導電磁石を液体ヘリウムに浸し、約マイナス270度まで冷却しています。

宇宙で理論上もっとも低い温度「絶対零度」はマイナス273度です。
つまり、それよりわずか3度高い温度です。

  • 中心:1億度のプラズマ
  • すぐ外側:マイナス270度の超伝導電磁石

という、非常に大きな温度差が同時に存在しています。


世界で実証が進む超伝導装置

日本の大型ヘリカル装置のほか、
フランスのWEST、中国のEAST、韓国のKSTARといった装置でも、
超伝導電磁石を用いた実験が行われています。

これらの装置は、長時間のプラズマ運転を実現しており、
核融合発電に必要な技術が実現可能であることを示しています。


冷却に使う電力はどれくらい?

超伝導電磁石を冷やすためにはエネルギーが必要です。

しかし、核融合発電が実用化された場合、

  • 発電量の数パーセント程度の電力で
  • 超伝導電磁石の冷却が可能

と考えられています。

発電全体を大きく左右するほどの負担にはなりません。


まとめ

  • 普通の電磁石だけでは、発電が成り立たない
  • 超伝導電磁石なら、ほとんど電力を使わずに強磁場を維持できる
  • 極低温という難しさはあるが、すでに実証されている

超伝導電磁石は、フュージョン発電を支える重要な基盤技術です。

ブランケットの冷却材が止まったら、メルトダウンは起こるの?

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原子力発電と聞くと、
「冷却が止まったらメルトダウンするのでは?」
という不安を思い浮かべる方も多いと思います。

ニュースや教科書で見聞きする
「冷却材」「メルトダウン」という言葉は、
それだけ強い印象を残します。

では、フュージョン(核融合)炉ではどうでしょうか。
プラズマを取り囲むブランケットにも冷却材が流れています。
もし、その冷却材が止まったら、
核分裂炉と同じような深刻な事故が起こるのでしょうか。

結論を先に言うと、
ブランケットの冷却材が止まっても、フュージョン炉でメルトダウンは起こりません。
ただし、「何も起きない」「完全に安全」というわけでもありません。

ブランケットの仕組みについては、こちらで解説しています。
👉 フュージョン発電のざっくりとした仕組み

この記事では、

  • 冷却が止まると何が起こるのか
  • なぜメルトダウンにならないのか
  • 核分裂炉との決定的な違いはどこにあるのか

を、できるだけ専門用語を使わずに、ゆるりと解説していきます。


冷却が止まると、実際には何が起こるのか?

まず最初に起こるのは、プラズマが消えることです。

フュージョン炉のプラズマは、
強い磁場と加熱や燃料制御によって保たれています。
冷却材が止まるような異常が起これば、
装置は自動的にプラズマを停止させます。

すると、
フュージョン反応そのものは、その瞬間に終わります。


プラズマが消えても、熱は残る

プラズマが消えても、
ブランケットや周囲の構造物は、もともと高温です。
さらに、中性子を浴びていた材料からは、
崩壊熱と呼ばれる熱がしばらく出続けます。

では、その崩壊熱は、
どれくらいの大きさなのでしょうか。


EU DEMO炉の具体例

将来のフュージョン発電を実証する装置として検討されている
EU DEMO炉では、崩壊熱の大きさが定量的に評価されています [参考文献1]。

その解析結果によると、

  • 運転停止から約1秒後
    → ブランケットの崩壊熱は
    運転時の発熱の約2%

  • 1時間後
    → 崩壊熱はすでに大きく減少し、
    停止直後の半分以下

  • 1週間後
    → 崩壊熱はさらに減少し、
    停止直後の崩壊熱の約4%

と見積もられています。

つまり、
停止直後には確かに熱は残りますが、
その熱は時間とともに確実に弱くなっていく
という性質を持っています。


冷却が止まると、温度はどうなるのか

冷却材が止まると、
この崩壊熱によって、
ブランケットの温度はゆっくりと上昇します。

ただし、その上がり方は、

  • 数秒や数分で急激に進むものではなく
  • 数時間かけて、初期温度から100℃あまり上昇する程度

という、非常に穏やかなものです。

冷却材停止後の第一壁(ブランケットの最もプラズマに近い壁)の温度変化を示したグラフ(初期約380℃、2時間で約550℃まで上昇)

[図1: 冷却材停止後の第一壁(ブランケットの中で最もプラズマに近い壁)の温度変化
(初期温度は約380℃、2時間で最大約550℃に達する)]

図1に示したように、EU DEMO炉を対象とした安全解析では、
ブランケットの能動冷却が完全に失われるという
厳しい条件を想定しても、 最も高温になる部分(第一壁)での温度上昇は
2時間でおよそ550℃程度にとどまることが示されています [参考文献2]。

※ ただし、この解析では、
真空容器内にヘリウムガスを導入し、
自然対流による受動的な熱除去が働く、
という前提条件が置かれています。

きちんと設計すれば、ブランケットが損傷することはありません。


崩壊熱は「弱い」のか?

ここで、ひとつ疑問が出てくるかもしれません。

「核分裂炉では崩壊熱が問題になるのに、
なぜフュージョン炉ではそうならないの?」

この違いを理解するには、
熱がどこから出ているかを見るのがポイントです。


核分裂炉の崩壊熱は「炭火」

核分裂炉では、
ウラン燃料の中に
たくさんの核分裂生成物が残ります。

これらは不安定で、
運転を止めても次々に崩壊し、
長時間にわたって熱を出し続けます。

たとえるなら、
核分裂炉の崩壊熱は
消えかけの炭火のようなものです。

炎は見えなくなっても、
中ではじわじわと熱を出し続け、
長いあいだ放っておくと危険です。
だから、冷やし続ける必要があります。


フュージョン炉の崩壊熱は「熱いフライパン」

一方、フュージョン炉では、
残る崩壊熱の主な源は、
中性子で放射化した構造材です。

これは、
火を止めたあとの熱いフライパンに似ています。

しばらくは熱いけれど、
時間がたてば自然に冷えていきます。


なぜフュージョン炉ではメルトダウンにならないのか

ここまでの話を整理すると、
違いはとてもはっきりします。

  • 核分裂炉
    → 燃料が崩壊熱を出し続ける
    → 冷却できないと温度が上がり続ける

  • フュージョン炉
    → プラズマはすぐ消える
    → 崩壊熱は構造材から一時的に出るだけ
    → 時間とともに必ず弱くなる

フュージョン炉でも、
冷却が止まれば温度は上がります。
しかしそれは、
自然に頭打ちになる温度変化です。


まとめ

ブランケットの冷却材が止まっても、
フュージョン炉でメルトダウンは起こりません。

それは、
崩壊熱が存在することを前提にしても、
その大きさと時間変化が、設計で十分に扱える範囲にある
からです。


参考文献

[1] G. Caruso, et al., DEMO – The main achievements of the Pre – Concept phase of the safety and environmental work package and the development of the GSSR, Fusion Engineering and Design 176 (2022) 113025.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0920379622000254

[2] Martin Draksler, et al., Natural Convection Cooling in DEMO Vacuum Vessel during EX-VV LOCA, Proceedings of the International Conference Nuclear Energy for New Europe, Portorož, Slovenia, September 12 – 15, 2022.
https://www.djs.si/nene2022/proceedings/htm/pdf/NENE2022_1015.pdf

フュージョン(核融合)発電は「いつ使える技術」なのか ― 2030年代の原型炉、2050年以降の商業化 ―

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フュージョン(核融合)発電について調べていると、
多くの人が、こんな疑問に行き着きます。

「で、結局いつ使えるようになるの?」

この問いに対しては、
単純に「◯年です」と答えることはできません。

なぜなら、

  • 何をもって「使える」と言うのか
  • どの段階を指しているのか

によって、答えが変わるからです。

この記事では、
これまで STEP6を通して見てきた技術課題を踏まえたうえで、

フュージョン発電は
どの段階まで来ていて、
いつ何が達成されるのか

を、時間軸で整理します。


「実用化」という言葉のあいまいさ

まず大切なのは、
「実用化」という言葉が非常にあいまいだという点です。

フュージョン発電には、少なくとも次の段階があります。

  1. 原理が正しいことが分かる
  2. 実験装置で反応が起こせる
  3. 発電所として成立する設計が示せる
  4. 継続運転が可能な原型炉が動く
  5. 経済性を含めて商業炉として成り立つ

現在のフュージョンは、
③から④へ進もうとしている段階にあります。


2030年代:プロトタイプ(原型炉)の時代

2030年代に世界が目指しているのは、

「フュージョン発電所の原型」
(DEMO炉・プロトタイプ炉)

です。

これは、

  • 電気を実際に取り出す
  • ブランケットで燃料を自給する
  • 定常運転をある程度の期間続ける

といったことを、
発電所スケールで初めて実証する段階です。

この段階で問われるのは、

  • 本当に発電所として回るのか
  • 遠隔保守は成立するのか
  • トリチウムは安全に循環できるのか

といった、
STEP6で扱ってきた課題そのものです。

2030年代は、
「できるかどうか」を工学的に示す時代

だと言えます。


なぜ2030年代より早くならないのか

「もっと早くできないの?」
と思う方もいるかもしれません。

しかし、フュージョン発電では、

  • 高エネルギー中性子を浴びた材料
  • 強く放射化した巨大構造物
  • トリチウムを扱う燃料サイクル

といった要素を、

実機スケールでしか検証できない

という制約があります。

計算や小規模実験で
「だいたい分かっている」ことと、
発電所として動かせることの間には、
大きなギャップがあります。

このギャップを埋めるのが、
2030年代の原型炉です。


2050年以降:商業炉というフェーズ

原型炉が成功したとしても、
それですぐにフュージョン発電が
大量に建つわけではありません。

次に問われるのは、

  • 建設コストは下げられるか
  • 運転・保守は合理化できるか
  • 他の電源と競争できるか

といった 経済性 です。

この段階に入るのが、

2050年以降の商業炉フェーズ

と考えられています。

ここでは、

  • 学習効果
  • 設計の標準化
  • 量産効果

が効いてきます。

原子力発電や再生可能エネルギーも、
最初から安かったわけではありません。


原子力発電も「数十年」かかった

参考として、原子力発電を振り返ると、

  • 最初の原子炉:1940年代
  • 発電実証:1950年代
  • 商業化の拡大:1970年代以降

と、
数十年単位の時間がかかっています。

フュージョン発電も、

巨大で複雑なエネルギー技術

である以上、
同様の時間軸で進むのは自然です。


結局、いつ使えるのか

ここまでをまとめると、

  • 2030年代
    フュージョン発電が
    「発電所として成立するか」を示す段階

  • 2050年以降
    フュージョン発電が
    「社会で使える電源」になるかが問われる段階

となります。

フュージョン発電は、
近すぎる未来でも、
遠すぎる夢でもありません。


おわりに

これまでの STEP6 で見てきたように、
フュージョン発電には、

  • 材料
  • 保守
  • 燃料
  • コスト

といった、
避けて通れない現実があります。

それでもなお、
世界がフュージョンを目指し続けるのは、

他のどの電源とも違う価値を
持っているから

です。

2030年代は「成立するかを示す時代」、
2050年以降は「使われるかが問われる時代」。

フュージョン発電は、
一足飛びに完成する技術ではなく、
段階を踏んで現実に近づいている技術だと言えるでしょう。

フュージョン(核融合)発電は、どこまで「現実」に来ているのか ― 技術課題をすべて並べて見えてくる現在地 ―

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ここまで STEP6 では、
フュージョン(核融合)発電を「発電所」として成立させるための現実的な課題を、
一つずつ見てきました。

  • 放射線はどれほど厳しいのか
  • ブランケットは本当に交換できるのか
  • トリチウムは安全に回せるのか
  • コストは現実的なのか

この記事では、それらを もう一度まとめて俯瞰し、次の問いに答えます。

フュージョン発電は、いまどこまで来ていて、
何が分かり、何がまだ未完成なのか


STEP6で扱ってきた「5つの現実」

STEP6では、次の5つのテーマを扱ってきました。
それぞれの記事へのリンクと、要点を 1分で追える形にまとめます。


① 放射線損傷 ― 材料は耐えられるのか

👉 フュージョン炉の放射線損傷はどれほど厳しいのか
― 原子炉との比較と材料開発の現状 ―

フュージョン炉では、

  • 14 MeV の高速中性子
  • 長時間・高フルエンス照射

により、構造材料が大きなダメージを受けます。

これは、

  • 原子炉より 中性子エネルギーが高い
  • 加速器実験では 条件を完全再現できない

という意味で、極めて厳しい条件です。

ただし現在は、

  • 低放射化フェライト/マルテンサイト鋼
  • バナジウム合金
  • SiC/SiC 複合材料
  • 中性子照射の模擬試験・評価

などの研究が進み、状況は

「理論的に不可能」ではなく、
「実証が必要な段階」

まで来ています。


② ブランケット交換 ― 巨大メンテナンスという現実

👉 一筋縄ではいかないブランケットの交換
― フュージョン発電を支える“巨大メンテナンス” ―

ブランケットは、

  • 熱の取り出し
  • トリチウム増殖
  • 放射線遮蔽

を同時に担う最重要機器です。

一方で、

  • 強く放射化され
  • 人が近づけず
  • 数百トン規模

という 交換前提の巨大構造物でもあります。

現在は、

  • 完全遠隔操作
  • モジュール化
  • 定期交換を前提とした設計

によって、位置づけが

「交換できない」から、
「交換は大仕事だが想定内」へ

移りつつあります。


③ コスト ― フュージョン発電は高いのか?

👉 フュージョン発電は高い?
原型(DEMO)炉の建設費と発電コスト

フュージョン発電は、
「とにかく建設コストが高い」という印象を持たれがちです。

しかし、

  • DEMO は「初号機」であること
  • 学習効果・量産効果が働くこと
  • 燃料費がほぼゼロに近いこと

を踏まえると、見えてくるのは

「最初は高いが、
下がる余地が大きい電源」

という性格です。


④ トリチウム分離 ― ブランケットの「その先」

👉 フュージョン炉で生まれたトリチウムを、どうやって取り出すのか
― ブランケットの「その先」にある分離技術の現実 ―

トリチウムは、作れば終わりではありません。

  • 気体(HT)
  • 水蒸気(HTO)

という 複数の化学形態で現れ、

  • 分離
  • 精製
  • 再投入

という複雑な燃料サイクルが必要になります。

この分野はしばしば、

「プラズマよりも化学工学が難しい」

と言われるほどで、現在も最適解の探索が続いています。


⑤ トリチウムインベントリ ― 最終評価指標

👉 トリチウムインベントリはどこまで減らせるのか
― 核融合発電所の安全性と経済性を左右する「最終指標」 ―

ここで重要なのは、

  • 年間にどれだけ 使うか
    ではなく
  • 発電所がどれだけ 保有するか

です。

100万kW級の発電所では、
年間で約150kgのトリチウムを消費すると言われます。

しかし欧州 DEMO の評価では、
実際の保有量(インベントリ)は約1.8kg と見積もられています。

これは、

循環する量は大きい一方で、
発電所内に“滞留する量”は厳密に最小化する

という安全思想が、設計の中核にあることを意味します。


見えてきた「現在地」

STEP6全体を通して見えてきたのは、次の現実です。

  • 原理的に不可能な課題はない
  • しかし、すべてが「実証途中」
  • 一つでも欠けると、発電所にならない

フュージョン発電は、

「夢物語」でも「すぐ完成する技術」でもなく、
「巨大で難しい工学プロジェクト」

だと言えるでしょう。


なぜ、それでもフュージョンを目指すのか

それでも世界がフュージョンを目指す理由は、

  • 燃料が事実上無尽蔵であること
  • 運転中に暴走しないこと
  • 発電時に CO₂ を排出しないこと
  • 長寿命・高レベルの放射性廃棄物をほとんど生まないこと

といった特長を、

天候や立地条件に左右されない
大規模で安定的な電源として
同時に満たせる可能性がある
からです。

再生可能エネルギーは、将来のエネルギーシステムに欠かせません。
一方で出力が自然条件に左右されるため、
大規模な蓄電や系統制御と組み合わせる必要があります。

フュージョンが目指しているのは、再エネを置き換えることではなく、

再エネと組み合わせて、
ゼロカーボンで安定した電力供給を支える基盤電源となること

です。


STEP6の結論

フュージョン発電は、
「原理は分かった」段階を超え、
「発電所として成立させられるか」を
一つずつ検証している段階にある。

楽観でも悲観でもなく、
現実そのものが、いまのフュージョンです。

トリチウムインベントリはどこまで減らせるのか ― フュージョン(核融合)発電所の安全性と経済性を左右する「最終指標」 ―

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これまでの記事では、

  • トリチウムは自然界にほとんど存在しないこと
  • フュージョン(核融合)炉では、ブランケットでトリチウムを生み出すこと
  • そのトリチウムを分離・回収し、再び燃料として使う必要があること

を説明してきました。

そして前回の記事
👉 フュージョン炉で生まれたトリチウムを、どうやって取り出すのか
― ブランケットの「その先」にある分離技術の現実 ―

では、その「回収」の部分が、想像以上に複雑で難しい技術であることを見てきました。

今回はその最終的な評価指標として、

発電所が実際にどれだけのトリチウムを「保有」するのか

すなわち
トリチウムインベントリ について解説します。


トリチウムインベントリとは?

トリチウムインベントリとは、

発電所内に、ある時点で存在している
トリチウムの総量

のことです。

これは、

  • 燃料として使われる分
  • 分離・回収・調整の途中で滞留している分
  • 配管・装置内に一時的に存在する分

をすべて含んだ量です。


なぜインベントリの最小化が重要なのか

① 経済性の問題(起動用トリチウム)

最初に建設される DEMO炉(初号機) には、
運転を開始するためのトリチウムが存在しません。

  • 2号機以降は、初号機で増殖されたトリチウムを利用可能
  • しかし初号機は、外部から購入する必要があります

このトリチウムは、

  • 原子炉などで生産される
  • 極めて高価な資源

です。

起動時のインベントリ量は、
ほぼ運転時インベントリと同程度になるため、

インベントリを小さくできるかどうかは、
建設計画そのものに影響する

重要な経済要因になります。


② 安全性の問題(最悪事故を想定)

フュージョン発電所は、

最悪の事故が起きても、住民避難が不要

であることを前提に設計されます。

この「最悪事故」には、

  • 建屋破損
  • 火災
  • トリチウムの放出

といった事象も含まれます。

トリチウムは放射性物質なので、隔離しなければならないものです。
👉 フュージョン発電のリスクと安全:トリチウムをどう管理するか

したがって、

そもそも持っているトリチウム量を最小化する

ことが、
安全設計の最優先事項になります。


欧州DEMO炉における評価結果

これまで紹介してきた
分離・回収・再利用技術をすべて考慮した結果として、
欧州DEMO炉で評価された
トリチウムインベントリを図1に示します[参考文献1]。

欧州DEMO炉におけるトリチウムインベントリを示すグラフ

[図1:欧州DEMO炉におけるトリチウムインベントリ評価]


合計インベントリは約 1.8 kg

図1から分かるように、

  • DEMO炉全体のトリチウムインベントリは
    約 1.8 kg

と評価されています。

これは、

  • かつてのトカマク炉設計で
    20 kg と評価された例[参考文献2]

と比べると、
桁違いの削減です。


どこにトリチウムが多く存在するのか

インベントリの内訳を見ると、

  • 燃料注入システム
  • 同位体調整(D/T 比の調整)
  • 同位体分離(トリチウム分離系)

が大きな割合を占めています。

特に分離系では、

  • 温度スウィング
  • 極低温冷却

といった操作が必要なため、

トリチウムの滞留時間が長くなりやすい

という構造的な制約があります。

一方で、インベントリの削減に大きく貢献しているのは、金属箔ポンプによる燃料の直接再利用 ではないかと思われます。

金属箔ポンプの詳細はこちら.
👉 フュージョン炉の燃料サイクルを支える分離技術 ― 水素(D・T)とヘリウムの分離―


「年間150kg消費」という数字の誤解

出力100万kW級の核融合発電所では、

年間 約150kg のトリチウムを消費する

とよく説明されます。

この数字だけを見ると、

「150kgもの放射性物質を持つのでは?」

という不安を感じる方もいます。

しかし、

  • 年間消費量 ≠ 保有量
  • 実際のインベントリは 2kg未満

です。

流れる量は大きいが、
溜めている量は極めて小さい

これが核融合発電の実像です。


まとめ:トリチウム問題の「最終回答」

  • トリチウムインベントリは、安全性と経済性を左右する最重要指標
  • 欧州DEMO炉では 約1.8kg まで削減可能と評価
  • かつての設計(20kg)から大幅な進歩
  • 年間消費量と保有量は、まったく別の概念

核融合発電は、
トリチウムを「大量に使う技術」ではなく、
「極めて少量を、厳密に管理しながら循環させる技術」

であることが、
数字として示されつつあります。

社会的受容性を高めるうえでも、
このインベントリ最小化こそが
最大のキモと言えるでしょう。


参考文献

[1] J. C. Schwenzer, et al., “Operational Tritium Inventories in the EU-DEMO Fuel Cycle,” Fusion Science and Technology 78 (2022) 664-675.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15361055.2022.2101834

[2] T. J. Dolan, “Fusion Research,” Pergamon Press, New York (1982) p. 805

フュージョン(核融合)炉で生まれたトリチウムを、どうやって取り出すのか ― ブランケットの「その先」にある分離技術の現実 ―

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これまでの記事では、

  • トリチウムは自然界にほとんど存在しないこと
  • フュージョン(核融合)炉では、ブランケットでトリチウムを「増殖」すること

を紹介してきました。

前回の記事
👉 三重水素は自給自足 ― フュージョン炉の燃料のひみつ ―
では、

  • なぜトリチウムは自然界にほとんど存在しないのか
  • なぜフュージョン炉では「自給自足」が必要なのか

を説明しました。

しかし、実際の発電炉では
トリチウムを「作る」だけでは足りません。

生まれたトリチウムを、
安全かつ確実に取り出し、
再び燃料として使える形に戻す

という、
もう一段階難しい工程が必要になります。

この記事では、
STEP6:フュージョン発電を支える技術課題として、

  • トリチウム分離の仕組み
  • なぜ設計が難しいのか
  • どこが未完成なのか

を、EU DEMO炉の検討例をもとに解説します。


固体増殖ブランケット:ヘリウムからトリチウムを取り出す

まず、固体増殖ブランケット
(いわゆるペブルベッド型)から見ていきます。

トリチウムはどうやって外へ出てくる?

リチウム化合物のペブル内部で生成された
トリチウム原子(T) は、

  • 高温条件下で
  • ペブル表面へと 拡散

していきます。

この拡散を助けるために、

  • ヘリウムパージガス
  • そこに 約0.1 mol% の水素(H₂)

を加えて流します。

すると、

  • 水素原子(H)とトリチウム(T)が
  • 同位体交換反応 を起こし
  • 気体状の HT が生成されます。

HTO(水蒸気形トリチウム)という厄介な存在

問題は、それだけではありません。

ペブル内部の酸素や、
ヘリウム中に微量に含まれる水分と反応すると、

  • HTO(トリチウムを含む水蒸気)

も同時に生成されることが知られています [参考文献1]。

つまり、分離対象は

  • 気体の HT
  • 水蒸気の HTO

という 2種類の化学形態になります。

👉 トリチウム分離が難しい最大の理由の一つが、
「化学形態が1つではない」ことです。


EU DEMOで検討されているトリチウム分離フロー

EU DEMO炉で想定されている
固体増殖ブランケットからの分離フローを
図1 に示します [参考文献2]。

固体増殖ブランケットからのトリチウム分離フロー(概念)を表す図

[図1:固体増殖ブランケットからのトリチウム分離フロー(概念)]

このフローでは、
2種類のモレキュラーシーブベッドが用いられます。


RMSB:水蒸気形トリチウムを捕まえる

最初に使われるのが、

反応性モレキュラーシーブベッド(RMSB)
(Reactive Molecular Sieve Bed)です。

  • 白金を添加したゼオライトを使用
  • HTO や H₂O を強く吸着 [参考文献3]

吸着後、

  • 水素ガスを流しながら加熱再生すると
  • 同位体交換により
  • ゼオライト中の T が HT に変換されて放出

されます。


CMSB:水素ガス形トリチウムを捕まえる

RMSBを通過して乾燥したガスは、

  • 77 K(液体窒素温度) に冷却され
  • 極低温モレキュラーシーブベッド(CMSB)

に送られます。

CMSBでは、

  • H₂ や HT を吸着
  • 減圧・加熱によりトリチウムを回収

という操作が行われます。


それでも「きれいに分かれる」わけではない

RMSB・CMSBを通過した回収ガスの組成は、おおよそ

  • 96%:H₂
  • 3%:H₂O
  • 残り 1%弱:HT・微量の HTO

です。

この混合ガスを
トリチウム分離プラントに送り、

  • 最終的に
  • 燃料として使える T₂ ガス

へと変換します [参考文献4]。


液体 Pb–Li ブランケット:さらに難しい世界

液体増殖ブランケットでは、
液体 Pb–Li(鉛リチウム)合金を用いて
トリチウムを増殖・回収します。

その代表的な回収概念を 図2 に示します [参考文献2, 5]。

液体 Pb–Li ブランケットにおけるトリチウム回収方式  (上:気液接触器 GLC/中:真空対向透過膜 PAV/下:液真空接触器 LVC)を表す図

[図2:液体 Pb–Li ブランケットにおけるトリチウム回収方式
(上:気液接触器 GLC/中:真空対向透過膜 PAV/下:液真空接触器 LVC)]


GLC:ガスと液体を直接接触させる

気液接触器(GLC) では、

  • 液体 Pb–Li と
  • ヘリウムガスを直接接触させ

トリチウムを
ヘリウム側へ拡散させます。

  • 気泡化
  • 充填層での対向流

など、工業的には成熟した技術ですが、

  • H₂形・HTO形の両方が生成
  • 結局、固体増殖と同じ分離系が必要

という課題があります。


PAV:金属膜で「水素だけ」を通す

GLC を発展させた方式として検討されているのが、
真空対向透過膜(PAV) です。

PAV では、

  • 水素透過性の高い ニオブ(Nb)バナジウム(V) の金属膜を用い
  • 液体 Pb–Li 中に溶け込んだトリチウムを
    真空側へ選択的に透過させます。

この手法では、

  • 水素ガス形のトリチウムのみが抽出されるため
  • 分離プロセスを大幅に簡略化できる

という大きな利点があります。

原理実証はすでに完了していますが、
膜の耐久性などの点については、
引き続き研究開発が進められています。


LVC:最もシンプル、だが未成熟

さらに発展形として、

液真空接触器(LVC) も検討されています。

  • 金属膜を使わず
  • Pb–Li の自由表面を
    真空と直接接触させる方式

構造は非常にシンプルですが
接触面積を確保するために液滴化するなどの工夫が必要で
研究は始まったばかりの段階です。


まとめ:トリチウム分離は「発電炉の難所」

トリチウム分離は、

  • ブランケット近傍の高温環境で運用され
  • 放射線の影響を受ける設備条件のもとで
  • 気体(HT)や水蒸気(HTO)など
    多様な化学形態を同時に扱い
  • さらに厳しい安全要求を満たす必要がある、

という制約が重なった、
極めて難度の高い工程です。

フュージョン発電は、
プラズマだけでなく、
その裏側にある化学プロセスまで完成して
初めて「発電所」になります。

そして、単に分離できたらよいというわけではなく、
トリチウムの滞留を最小限にし、
発電所内のトリチウムを最小化しなければなりません。
その課題については、次の記事で解説します。
👉 トリチウムインベントリはどこまで減らせるのか ― 核融合発電所の安全性と経済性を左右する「最終指標」 ―


参考文献

[1] 枝尾 祐希 et al., “DT 中性子照射下における固体増殖材 Li2TiO3からのトリチウム放出特性,” JAEA-Research 2012-040 (2013).
https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Research-2012-040.pdf

[2] L.V. Boccaccini, et al., “Status of maturation of critical technologies and systems design: Breeding blanket,” Fusion Engineering and Design 179 (2022) 113116.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0920379622001168

[3] I. Cristescu and M. Draghia, “Developments on the tritium extraction and recovery system for HCPB,” Fusion Engineering and Design 158 (2020) 111558.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S092037962030106X

[4] R. Lawless, et al., “Tritium Plant Technology Development for a DEMO Power Plant,” Fusion Science and Technology 71 (2017) 679-686.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15361055.2017.1290948

[5] M. Utili, et al., “Design and Integration of the WCLL Tritium Extraction and Removal System into the European DEMO Tokamak Reactor,” Energies 16 (2023) 5231.
https://www.mdpi.com/1996-1073/16/13/5231