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フュージョン(核融合)発電に関する本や記事の中で、
「核融合発電のための超伝導磁石は、TNT火薬○○トン分のエネルギーを蓄積しているので、爆発するかもしれない」
といった表現を見かけることがあります。
中には「日本物理学会編」と書かれた書籍に載っている場合もあります。
私は長年、超伝導磁石の研究に携わっていますが、超伝導磁石そのものが爆発したという話を聞いたことがありません。
(もちろん、永久磁石が爆発したという話も聞いたことはありません。)
結論から言うと、
この「爆発するかもしれない」という表現は、物理的に正しくありません。
そもそも「爆発」とは何か
一般に爆発とは、
- 気体などが
- ごく短時間で
- 急激に膨張し
- 周囲に衝撃波や爆風を与える
現象を指します。
代表例が火薬の爆発です。
火薬では化学反応によって大量のガスが一気に発生し、体積が急増します。
超伝導磁石は「電磁石」
超伝導磁石は、
- 導線をぐるぐる巻いたコイル
- そこに電流を流すことで磁場を作る
という、基本的には「電磁石」です。
確かに、
- 磁場の中にはエネルギーが蓄えられています
- 磁石には外側へ広がろうとする電磁力が働きます
ここまでは事実です。
少し膨張させてみるとどうなるか?
仮に、超伝導磁石が何らかの理由で少し膨らんだとします。
すると、
- 導線に機械的な力がかかる
- どこかで導線が切れる、または超伝導状態が失われる
- 電流が流れなくなる
電流が流れなければ、磁場も生まれません。
磁場がなければ、電磁力も生まれません。
つまり、
それ以上、膨張し続けることはできません。
もし導線がゴムのように何倍にも伸びる材料でできていれば、別の話になるかもしれません。
しかし、実際の超伝導線材は金属です。伸びには限界があります。
回りくどい言い方になりますが、
超伝導磁石を「爆発」させる物理的メカニズムは存在しません。
TNT換算が生む誤解
磁石に蓄えられたエネルギーの大きさを説明するために、
TNT火薬○○トン分に相当するエネルギー
という「換算」が使われることがあります。
これは数値の大きさを示すための換算にすぎません。
- TNT:化学反応エネルギー
- 超伝導磁石:磁場として蓄えられたエネルギー
エネルギーの種類も、放出の仕方も、まったく違います。
エネルギー量が同じだからといって、
起こる現象まで同じになるわけではありません。
実際の大型装置ではどうか
世界中で、大型の超伝導磁石を用いた核融合装置が長年運転されています。
大型ヘリカル装置(日本)、WEST(フランス)、KSTAR(韓国)、EAST(中国)などです。
これらの装置で、
「超伝導磁石が爆発した」事故は報告されていません。
万一、超伝導状態が失われる(クエンチ)場合でも、
- 電流を逃がす回路
- エネルギーを分散させる抵抗器
などが設計されており、起こり得るのは
- コイルの一部損傷
- 冷媒の蒸発
- 装置停止
といった機械的・熱的トラブルです。
爆薬のような爆発とは性質がまったく異なります。
本を読むときの大切な姿勢
書店にはたくさんの本が並んでいます。
しかし、すべてに正確な内容が書かれているとは限りません。
特に、
- 極端に不安をあおる
- 刺激的な比喩表現
には注意が必要です。
エネルギーの「大きさ」を強調したい気持ちは分かりますが、
物理現象として誤解を招く表現は好ましくありません。
まとめ
- 超伝導磁石は大きなエネルギーを蓄える
- しかし爆薬のように爆発することはない
- TNT換算は「大きさの例え」にすぎない
超伝導磁石が爆発する、という心配をする必要はありません。





